美髪のシンデレラ~眼鏡王子は狙った獲物は逃がさない~

勘違いは加速する

翌日、瑠花が出社すると妙に清々しい表情をした研究開発課の課員達が次々と出勤してきた。

つい最近まで、狭間の横暴な注文に応えるべく、スタッフにはずいぶん無理をさせてきた。

部長が穂積に代わってからも、狭間の残した悪行の余波で、方針の固まらない商品が数点あった。

顔色が悪く、日に日に痩せ細っていく彼らを見て、瑠花も橋沼課長もできるだけ定時の帰宅を促してはきたが効果は薄かった。

「三神主任、おはようございます」

「おはよう、行村くん。今日は顔色がいいのね」

「ええ、昨日、穂積部長が来て、突然の定時帰宅令を出したんですよ。あの氷の無表情で。怖くて誰も反論できなくて全員定時で帰宅したからみんな顔色がいいんです」

行村恭彦(ゆきむらやすひこ)は入社2年目の研究開発課スタッフだ。

痩せ型で、いかにも理系男子といった風貌だが商品開発に向ける根性と意気込みには並々ならぬものがある。

瑠花の大学の3学年下の後輩でもあり、瑠花を慕ってくれているので扱いやすい。

「へえ、穂積部長の言うことなら聞くんだ?行村」

「げっ、橋沼課長。だってあの人怒らなくても怖いのに凄んだら鬼のように恐ろしくて・・・」

就業開始時間ギリギリに滑り込んできた橋沼課長を見て、行村が肩をすくめた。

「俺と瑠花ちゃんがあれほど注意しても誰も言うことを聞かなかったのに、穂積部長の鶴の一声で全員が従うとは・・・」

悔しそうな言葉とは裏腹に、橋沼は嬉しそうに言った。

「三神主任が先陣を切って頑張っているのに、僕らが怠けてなどいられません」

「ほらね。瑠花ちゃんが頑張り過ぎるとこいつらも無理をするって言ったろ?」

橋沼のちょっと責めるような言葉に、瑠花は肩を竦めた。

昨日は穂積に責められ、瑠花も大人しく定時帰宅をしたのだが、 やはり、先輩が自ら健康管理を行う態度を示さないと後輩は付いて来ないのだなと、瑠花は実感した一件だった。
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