瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
刺し違いの果て
 また新たな人生をやり直しているのだと気づいたとき、いつも感じる絶望はそれほどでもなかった。

 片眼異色も相変わらずだが、むしろ贖罪としてすべてを受け入れられる。

 そんな中、妙な話を聞いた。王国成立にまつわる伝承だ。偉大なる指導者の意としてフューリエンと呼ばれる片眼異色の女性の存在。

 おそらく自分を指しているのだと気づいたが、事実とは大幅に違う。てっきり()しき存在として語り継がれると思っていた。それどころか、わざわざ伝承に残す意味が理解できない。

 そこで神子は悟った。ゲオルクは自分を逃がさないつもりだ。自分と血を分かつ女性が十八歳で片眼異色ではなくなるということは、逆に左目の黄金色を失わない唯一の存在が際立つ。

 あの短剣も彼が持っていった。

 中途半端に神の力を押し付けられたゲオルクが、自分を探し出しすべてを終わらせるためなのだとしたら――。

 レーネはそこで我に返り、混濁する数多の記憶の中から現実へと切り換えて自己を確立させる。自分は今、ノイトラーレス公国のマグダレーネとして、アルント城にいるのだ。

 嫌な汗を掻き、乱れる呼吸を整えようと躍起になる。宛がわれた自室にある鏡に近づき、しっかりと外見を確認する。

 無意識に左目を手で覆ったが、今回は右目も金色なので片眼異色として目立つことはなかった。

 長い黒髪は記憶の中の彼のものと似ている。その考えに至ってレーネは素早く思考を振り払い、自身に腕を回しぎゅっと抱きしめて身を縮めた。

 心を落ち着かせ、そっと部屋の外を覗く。
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