瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「離れるのは許さないと言ったはずだ」

 どうやらレーネの呟きを違う意味で捉えたらしい。急いで訂正しようとしたが、レーネは思い留まった。そしてゆっくりと言葉を選ぶ。

「うん、そばにいさせて」

 レーネの意外な反応にクラウスは虚を衝かれ、ゆるゆると抱きしめている腕の力を緩めた。レーネは顔を上げ、クラウスと目を合わせてにこやかに笑う。

「私、もう諦めない。諦めなくてもいいってあなたが教えてくれたから」

 この気持ちを確信を持って名付けることは、まだできない。なぜならレーネが抱く初めての感情だからだ。けれど今なら、今だから言える。

「私も……愛している。クラウス・エーデル・ゲオルク・アルント陛下、どうか陛下の妻としてこれからもおそばにおいてください」

 自分がなにげなく言った願いを叶え、立派な国王陛下になったクラウスへの敬意を含めて伝える。しかし体裁を保てたのはそこまでだ。止まっていた涙が再び溢れだす。

「ありがとう。私を諦めずにいてくれて」

 クラウスは目を丸くさせた後、顔をくしゃりと歪めて泣き出しそうな表情で笑った。彼のそんな顔を見るのは初めてでレーネの心も満たされていく。

 気が遠くなるほどの長い時を経て、彷徨(さまよ)い続けていたレーネの長い旅が終わりを告げた。
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