瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
各々の立場から
 レーネがアルント城へ迎え入れられ、三週間近くが経とうとしていた。冬の面影はすっかりなりなくなり、春の息吹に染まった王都は人も、動物も、植物も活気づいている。

 過ごしやすい季節となり、うららかな日々は人々の心を陽気にさせた。

 その一方でレーネは日に日に焦燥感に(さいな)まれつつあった。肝心の探し物が見つからない。この大きさの城からして、長期戦は覚悟していたはずだ。

 だから本当に自分を波立たせている原因は別にある。この城での、クラウスのそばにいる生活に慣れていくのが怖いのだ。

 レーネはノイトラーレス公国の王女の肩書きと共に、国王の妃として迎え入れられたと近々国民に正式に公表される。

 近隣諸国との関係も良好で、国内の治世も落ち着き、若き国王の結婚はずっと望まれていた。民衆が歓喜に包まれるのは容易に想像できる。

 南国境沿いに誕生したノイトラーレス公国の関係者と知り、国益を考えた政略結婚だと推測する者も多いだろう。

 現に先に知らされた城仕えの人間たちの間ではそういう目で見られる機会も少なくはない。どちらにしてもレーネにとってはどうでもいい話だ。

 午後、ふと中庭に出てみれば青い空が広がっているのが目に入る。どこにいても、いつの時代もこの光景は変わらない。

 懐古的になりゾフィをはじめとする面々を思い浮かべ、レーネは故郷に思いを馳せた。ゾフィたちにはすでに結婚話は届いているのだろうか。妹は、どう思っただろう。

 ちくりと胸が痛み視線を元に戻すと、甘い花の香りが鼻をかすめた。この城の中庭は井戸や小さな池などの貯水設備があり、さまざまな植物も植えられている。

 いつも緑を絶やさずにいるが、今はちょうど季節的に彩りが豊かになる頃だ。
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