お見合い夫婦の結婚事情～カタブツ副社長に独占欲全開で所望されています～

「やぁ、真帆、元気か」

　真帆の前にどかりと座り、たっぷりの口髭をゆらして義雄は微笑む。親しげに緩む目元に真帆の緊張も少し解けた。

「お久しぶりです。元気です。おじさまもお元気そうですね」

　もう８０はとっくに超えているはずなのに義雄は声だけはいつまでも若々しい。

「あぁ、医者からは奇跡の老体だと言われてるよ。酒もタバコも好きなだけやっててこれだからな」

　そういえば母が少しは節制してくれないととこぼしていたなと思い真帆はくすくすと笑った。そんな真帆に義雄が目を細めた。

「真帆は可愛くなったな、会うのは何年ぶりかな」

　普通の親戚付き合いはしているとはいえ義雄は忙しい身だ。母の小夜子ならともかく真帆が会うのは…。

「確か、修二君が亡くなった時以来だな」

「そうですね…。ご無沙汰してしまいまして申し訳ありません」

　真帆は丁寧に頭を下げる。
　義雄も忙しい身ではあるが、真帆の方もここ数年は新社会人として生活が変化して忙しくしていた。父の葬儀のとき以来顔を合わせてはいなかった。

「いやいや」

　叔父は鷹揚に首を振る。

「小夜子からはがんばっとると聞いていておったよ。なかなかいい職場みたいじゃないか」

「…そうなんです。だから、事務所がなくなるのは寂しいのですが」