クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
(お金持ちって……すごい……)

 そんな言い方をすれば夏久さんはちょっと嫌な顔をするだろう。でも、一般家庭で育った私にとっては別次元の世界だった。

「なるべく早く帰ってきてくれると嬉しいです……」
「……出掛けない方がよさそうだな?」

 そう言うと、夏久さんは携帯電話を手に取ってどこかへ電話をかけ始めた。

「――ああ、適当に見繕ってくれ。十五分あれば足りるか? なるべく早く頼む」

 電話を切ったのを見て、きゅっと夏久さんの袖を掴んだ。

「お仕事ですか……?」
「いや、秘書に買い物を頼んだだけだよ」
「え……」
「今の君を放っておけないからな」

 額に手を当てて天を仰ぐ。

(最近、仕事もリモートでやってるって言ってた。会社にはいろいろ迷惑をかけちゃってるんだろうなと思ってたけど、まさか秘書さんに買い物まで……)

「あの……なにからなにまですみません……」
「これぐらいしかできなくてすまないな」
「いえ、充分すぎます……」

 関係が改善してから、夏久さんのサポート体制はさらに万全なものへと変わった。
 本人いわく「本当は前からこうしたかった」らしい。
 私が思っているほど深く誤解していたわけではないらしいけれど、一度冷たい態度を取った手前、いつ寄り添うかタイミングに悩んでいたとのことだった。
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