エリートパイロットの独占欲は新妻限定
世界で一番幸せなキス



勢いに任せてタクシーに乗っても、由宇には行くあてがない。週の真ん中の水曜日では佐奈のアパートに行っても迷惑をかけるだけだろう。
結局マンションの前で降りたものの、そのまま部屋に帰る気にはなれなかった。

智也さんにひどいこと言っちゃったな……。

そう後悔しても今さらどうにもならない。
あんなふうに悪態をつくつもりは全然なかった。智也を困らせるつもりも。
大人っぽく見られたかったくせに、やっていることは子どもと一緒。

きっと嫌われちゃったよね。……口から出た言葉を消す魔法があればいいのに。

深いため息をつき、すぐ近くにある小さな公園のベンチに座った。
見上げた夜空には星がいくつかまたたいている。外灯や街の明かりがあるため、見えるのは一等星がせいぜい。

バリ島からの帰りの飛行機で見た星空を思い出した。
満点の星がまたたかずに放つ光は、それはそれは美しかった。


「もうきっと見られないよね……」


智也との結婚生活も、もしかしたらこれで終わりかもしれない。

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