極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています

結貴side


結貴side

         
   
          

「さくっと連絡先を聞けばよかったのに。うちのボスはなんでこんなにヘタレなんだ」

 俺に向かって文句を言うのは、運転席でハンドルを握る秘書のアランだ。

 一度見た住所や地図を瞬時に記憶してしまえるほど能力の高い彼は、イギリスから来日したばかりなのに、生まれ育った故郷を走るかのように悠々と運転する。

 取り引き先へ移動中、後部座席に座った俺が、文香と会ったのに連絡先を聞きそびれたと言うと、ヘタレだ愚図だと容赦ない非難の言葉を浴びせてきた。

 アランは上品で整った外見に似合わず、辛辣な性格をしている。

 俺だって連絡先を聞いて次に会う約束をとりつけたかったけれど、彼女の涙になにも言えなくなってしまった。

 もう二度と会えない亡くなった男を今でも愛していると泣く文香は、悔しいくらい美しかった。
 それほどまでに彼女に愛される男に激しく嫉妬した。
 
 故人に対抗心を抱いたって、勝ち目なんてないのに。
 
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