ボードウォークの恋人たち
「危ないじゃないの、ハル!私今日は振袖なのよ」
なんてことするのよ、と声を荒らげるとふふふといつものような軽い笑い声が頭の上から降ってきた。
あ、やば、つい反応しちゃった。

「ただいま、水音」

私を後ろから抱きしめた状態で右の耳に唇を寄せ嬉しそうな声を出し、おまけにちゅっと耳にキスを落としてきた。

「なっ・・・・!」

一気に顔が熱くなり、全身に熱が回っていく。
何てことするの、コイツ。

「相変わらずカワイイな」

はああ?!
耳元で囁かれ、怒りと羞恥で全身が震えだす。

「ええーと、すみません。舘野と申します。見てたらわかると思いますけど、コイツ俺のなんで回収させてもらいます。後日きちんとお詫びに伺いますので今日は失礼します」

ハルはそのまま私をがっちりと両腕で抱え込み、目の前のこの状況に驚いて立ち尽くしている大江さんに頭を下げた。

ちなみに私を後ろから抱え込んでいるから必然的に私まで頭を下げる羽目になっていた。

「ちょっと、放してよ」

ハルの腕の中でもがいてみるけれど、着慣れない振袖と男の力に私の動きは完全に封じ込まれている。
どうして着物って足をうまく広げることができないんだろう。うまく踏ん張れないし。

「暴れんなよ水音。これ以上動いたら口にキスするぞ」

な、なんだそれ。
再び耳元で不穏な言葉を囁かれ、私は背筋が寒くなりピタリと動きを止めた。

ぷっ

思わずといった様子で目の前の大江さんが噴きだした。

「水音さん、恋人はいないとおっしゃっていましたが、大事な人がいたんですね。しかもお互い思い合っているような」

「いえっ、いませんいません。これは何かの間違いです」

くっついてくるハルをぎゅうぎゅうと両手で押しのけようと慌てる私に大江さんはにっこりした。

「お邪魔したのは私みたいだしどちらにしても今日はこれで解散にしましょう。今後のことはまた連絡しますね」

大江さんは怒りもせず爽やかな笑顔を浮かべて「お先に」とハルに会釈をするとエレベーターホールに向かって去っていってしまった。

あああああーーーー

「お、大江さんー」
去っていく大江さんに向かって右手を伸ばすが、それすらもがしっとハルに阻止されてしまう。

・・・ムカつく。
ムカつく、ムカつく、超ムカつく。
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