ノクターン
その夜、智くんは 10時過ぎに 電話をくれた。
いつも一緒にいたから 電話で話すことは 久しぶりだった。
「マンションね、場所は初台なんだ。少し会社に遠くなるけど麻有ちゃん、いいかな。」
と遠慮がちに言う。
「もちろん。」私は弾んだ声で答える。
「広さは、3LDKだって。貸していた人が出てそのままになっているから、二人で好きなようにリフォームしなさいって。」
「すごく嬉しい。広いし。本当にいいのかな。」
智くんのご両親に心から感謝する。
「いや、親父は 中古で申し訳ないって。」
「そんな事ないよ。賃貸のつもりだったんだよ。十分過ぎるよ。」
「ありがとう、麻有ちゃん。そう言ってもらえてホッとした。麻有ちゃんと部屋見に行って、大丈夫だったら 内装の相談しなさいって。」
智くんの声も明るくなる。
「本当に、ありがたいね。そんなに 気にかけてもらえて。」
「明日 部屋見に行こうね。親父に鍵借りたから。夜だから、ざっくりだけど。感じだけは わかるでしょう。」
「うれしい。智くんとの新居だね。私、お部屋 いつもきれいにして、お料理も もっと頑張るからね。」
「あー。麻有ちゃんがそういう事言うと、会いたくなっちゃうなあ。」
智くんは、甘い声で言う。
「私も。今日は、部屋が広く感じるよ。」
「結婚式の事とかも、真剣に考えなさいって言われたよ。ひとまず、軽井沢のご両親に了解頂いてからね。」