二度目の結婚は、溺愛から始まる
進み始める時間

カーテンから差し込む朝日。
傍らには、ぐっすり眠る蓮。

昨夜は、さほど体力を消耗することなく平和な睡眠を確保できたおかげか、目覚めもいい。

熟睡している蓮の腕から、そっと抜け出してバスルームへ。
完璧に身なりを整える時間の余裕はないため、すっぴんと色気のないルームウェア姿だ。

見た目の女子力は果てしなく低い。が、その分料理で補おうと決意する。

冷蔵庫を覗けば、いつの間にか食材が補充されていた。


(蓮は、出来すぎなのよ……)


ありがたいけれど、忙しい身なのだから、少しくらい同居しているわたしを使えばいいのにと思ってしまう。

お米を炊く時間はないので、主食はパンに決定だ。
野菜たっぷりのスープとサラダ、オレンジ。

頭に浮かんだメニューのうち、まずはジーノの祖母直伝のミネストローネから作り始める。

スープを煮込んでいる間に、ササミを使ったサラダを完成させ、フレンチトースト用の卵液に取り掛かろうとしたところで、物音がした。

振り返った先には、寝起きの蓮がいる。
まだ眠気が残っているのかぼうっとした表情で、あくびを噛み殺していた。

くしゃくしゃになった髪のせいで、身体ばかり成長した少年のようだ。


「おはよう? 蓮」


呼びかけるとハッとしたようにわたしを見つめ、何とも言えない顔をした。
昨夜のことを思い出して、きまりが悪いのだろう。

目を逸らし、ぼそっと呟く。


「……おはよう」


微笑みそうになるのをどうにか堪え、必要なことだけを口にした。


「カプチーノじゃなくて、普通のコーヒーでいい?」

「……ん」

「フレンチトーストにするつもりなんだけど、何枚食べる?」

「一枚」

「砂糖なし?」

「ああ」

「ねえ……オレンジ添えていい?」


食事にフルーツが混ざるのを嫌いそうだなと思いつつ確かめると、案の定顔をしかめる。


「イヤだ」

(イヤって……子どもじゃないんだから)

「見た目とか、ビタミンとか、バランスとか考えると必要なんだけど?」

「……別にしてくれれば、食べる」


好き嫌いを言うのは子どもっぽいと自覚したのか、蓮は渋々妥協案を提示した。


「わかったわ。別のお皿にするわね? あ、先にシャワーする? 出来上がりは、十五分後でいい?」

「……ああ」


バスルームに向かう蓮の背を見送って、くすりと笑う。


(シラフだったし、はっきり記憶が残ってるわよね……)

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