愛溺〜番外編集〜
春の風邪




『ごめんねぇ涼介、今彼氏が来てるんだ。もっと早くに言ってくれたら彼氏より涼介を選んでたのに』


電話越しに聞こえてきたのは甘ったるい声。
断られたのならそれで用は済んだのだが、その声が俺を誘う。


『明日はどう〜?
彼氏なんかより、涼介と会いたいな』

「本当?嬉しいなぁ。
じゃあ明日行くね」


別に嬉しいという感情はない。
ただ宿先が決まっただけ。

けれどそれは明日のことであり、今日の宿は決まらない。


本当は今日も宿先が決まっていた。
というより、すでにその相手の家に上がっていた。


相手の女とは恋愛感情など一切ない、体だけの関係だった。

もちろん転々としている他の女も同様だ。
事実、先ほど電話をかけた相手には男もいた。


そんな中で俺は泊めてもらう代わりにその関係になることを受け入れているが、それ以上のことを望んだことはない。

ただ、それはあくまで俺だけで。


相手はその関係に満足せず、本気になることを持ち出してきた。

その結果、他の女とも関係を持つ俺に怒り狂い、平手打ちをされた挙句に家から追い出された。



今の時間はもう午後八時を過ぎていた。

12月上旬のこの時期はひどく冷え込んでいて、吐く息が白い。


そろそろ寒さの限界だ。

駅前の公園で宿先を探すために電話をかけていたのだが、相手は見つからず。


今日は仕方なく家に帰ろうと思った。

本当は避けたいのだが、泊まる場所がないのなら仕方がない。


そう心で決めても、体がそれを拒否する。
足がうまく動かない。

家に帰れば母親がいるかもしれない。
そのことが自分の恐怖心を煽られるのだ。

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