愛溺〜番外編集〜
それでも、このまま公園で一夜を過ごせそうにない。
重い腰を上げて公園を出たその時。
ふと近くの信号に視線を向けると、クラスメイトの姿があった。
あまりに突然で、一瞬名前を思い出せなかった。
確か名前は川上愛佳。
クラスの支持を多く集めている、人気者だ。
いつも笑っているイメージのある彼女は、今は無表情で。
その姿に何故か目を奪われた。
凛としたその姿が純粋に綺麗だと思ったのだ。
「……川上さん?」
気づけば名前を呼んでいた。
そういえば、彼女とあまり話したことはない。
彼女も人気者であり、男からも支持を集めていた彼女の印象が、俺の中で薄かったのがやけに不思議だった。
そして川上さんと目が合った時が、すべての始まりだった。
真っ直ぐに俺を見つめる彼女の目が見開かれる中で、その黒い瞳が一度も揺れていなかったことに違和感を覚えた。
まるで今の彼女が偽物に見えた。
どことなく嘘っぽい。
女を見てこのように思うのは初めてだった。
事実、川上さんは今までに会ったことのない女だった。
いつしかそのような彼女の存在が気になって、同じ族の仲間である翼に調べてもらうよう頼んだ。
彼女のこれまで歩んできた人生は、想像を絶するものだった。
それなのに彼女はいつも笑っていた。
女というものは弱くて脆いと勝手に思っていた。
けれどそれは偏見に過ぎなかった。
むしろ俺の方が彼女よりずっと弱かった。
その存在に思わず手を伸ばし、巻き込んでしまったが、そこに後悔の念はない。
それほどまでに俺は、彼女に堕ちていた。