イケメン同期から全力で逃げてますが、逃げ切れる気がしません!
9. トラブル


「資料が紛失……!?」


地下にあるこのビルの管理事務所。
通された質素な応接スペースでわたしを待っていたのは、泣きそうになりながら立ち尽くす中年の女性――清掃スタッフの野上(のがみ)多恵(たえ)さんと、ソファに足を組んで座る西谷さんだった。

「……ええと、つまり、クライアントの重要資料を、清掃スタッフがゴミと勘違いして捨ててしまった、ってことですか?」

西谷さんから聞いた情報をわたしがまとめると、多恵さんが救いを求めるような目を向けてくる。

「私はその、こちらの方に聞いたんです、いいんですかって……」
「おばさんは黙っててっ!」
ネコ目がキィっと吊り上がって。

「は、はいっ」
震えあがった多恵さんは、作業着の端をきつく握り締めて項垂れた。
いつもは朗らかに冗談を飛ばしてくれる人なのに、可哀そうなくらい委縮してしまっている。

自分よりよっぽど年長の人だよ?
頭ごなしに怒鳴りつけるってどうなの?

いやいや、ここでわたしがキレたら話が何も進まない。
ふつふつお腹の底に沸く怒りはひとまず抑え、深呼吸して口を開いた。

「西谷さん、落ち着きましょう。状況を把握できません」

綺麗なルージュをひいた唇が思いっきり歪んだけど。
それを無視して、わたしは多恵さんに向き直る。

「ゴミ箱の中に資料が入っていたのは、確かなんですね?」

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