【完結】私に甘い眼鏡くん
カタコトの会話
高校二年生、春。

私、望月彩の通う高校では専攻分野に伴うクラス替えが行われた。その結果が気になりそわそわが止まらない。

いつもより少しだけ早起きして、いつもより少しだけ高い位置のポニーテール。歩いていても、激しく横揺れしているのを感じる。
それくらい今日の私は落ち着きがない。


「彩、少しは落ち着きなよ」
「無理だよ、どんな人と一緒のクラスになるかな? 担任の先生は? ワクワクしない?」
「私は普通。どうせ彩と一緒だしね」
「つれないなぁ」


親友の森中奈月、通称なっちゃんは、一年次と全く変わらないキューティクルサラサラショートカットをなびかせ、落ち着き払っている。そういえば彼女は陸上部の大会でも全く緊張しないって言っていたっけ。

その隣にいるのに私のそわそわの具合と言ったらなかった。武者震いと緊張が半々だ。
去年はほとんどなっちゃんと一緒にいたから、女子でも知り合い程度の付き合いで終わってしまった子ばかり。今年はいろいろな子と話してみたい。


「そして、あわよくば彼氏もほしい!」
「男子苦手なくせに?」
「うっ‥‥‥」


そう、私は少し、ほんの少しだけ男子が苦手だ。大きい声に下品な話題、等々。でも、本当に少し苦手なだけ。


「苦手じゃないよ、ちょっと話す機会が少ないけど!」
「はいはい、前見て歩こうね」


その時、前ではなく横から衝撃。反射的にすみませんと謝ると、その人は軽く会釈して私を抜き去っていく。


「‥‥‥新学期早々やってしまった」
「今度からは横にも気をつけよう」


うん、とうなずく。
がっくりと肩を落としている理由はもう一つ。


「てか今の東雲? 相変わらず陰気くさいねえ」
「なっちゃん! 聞こえちゃうよ」


東雲夕くん。彼の名前。去年同じクラスで、眼鏡をかけた背の高い理系の男の子。とても大人っぽくて、浮いているわけではないけれど、基本的にいつも一人。


「彩やばい! ゆっくり歩いてる場合じゃなかった!」
「え」


なっちゃんの言葉につられ腕時計に目をやると、始業十分前。思わず目を合わせる。
叫びながら、新学年が始まる学校へ走り出した。

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