翼のない鳥
プロローグ


ヒラリ、ヒラリ。


桜が舞う。


日本人なら誰しもが見たことがあるであろうその光景。

しかし今、そこに2人の人物が加わることによってなんとも幻想的な雰囲気が醸し出されている。



「なあ、あれって・・・」
「・・・転校生、でしょうね。」



思わず息を呑んでしまうほど美しいその景色にそっとたたずむ2人を、無機質なガラス越しに注視する者たち。

見惚れて、いたのかもしれない。


けれど、それほど美しくて―――それでいて、儚いのだ。



2人のうち1人は、少女。

風になびく金の髪に桜の花びらが時折混じる。
白磁の肌に、整った顔立ち。
凜とした強さと、今にも消えてしまいそうな弱さを併せ持つ紅の瞳は見るものすべてを魅了する。


もう1人は、少年。

華奢な体躯と長く伸ばされ一つにまとめられた銀の髪が彼の中性的な美しさをひきたてる。
少女と同じく白磁の肌に整った顔立ち。
見る者を引き込むような蒼の瞳には、強い意志が宿っている。
少女を守るように立つその姿は、どこか危うくミステリアスだ。


顔立ちや雰囲気にどこか似通ったものがあるものの、対照的な色彩からまるで精巧に作られた対の人形を見ているような気持ちにさせられる。

彼らの纏う衣装はまるで中世の貴族の姫とその従者のもののよう。

けれど、決してうるさいものではなく、桜の背景に妙にマッチし、いつまでも見ていたくなる。

高校という場所にも関わらず、彼らの存在だけ切り取られたような、そんな錯覚さえ引き起こす。



「なんか・・・すごいね。」
「ああ・・・」



自然と声は潜められ、感嘆の溜息をこぼす。

とてもではないが、大声で騒いだりできない。



そうすることを戸惑わせるような何かを、彼らは持っていた。





干渉することを躊躇させるような、何かを。



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