愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
1 運命的な再会



真正面に座る父がおもむろにテーブルの上に置いた冊子の正体は、だいたい見当がついた。
真っ白な台紙の硬そうな感じや光沢感のある質のよさ、全体の厚みなんかで。


「今週末、うちに来てくださるそうだから。見ておきなさい」


コホンと咳払いをして、このお見合い写真に対する説明を父はほとんど終えた。


「え……」


いやいやいや、私の気持ちは聞かないの? 置いてけぼり?
と、不満を抱いて顔を引きつらせる私に、父は畳みかけるように続けた。


「これは菜緒にとって、とてもいい縁談だよ」
「でも私、まだ結婚なんて」
「なにを言うんだ。年頃じゃないか」


父は私の反応を予測していたのか、私の言葉にかぶせ気味に早口で言った。


「前向きに考えなさい」


父の声はとても穏やかだ。
まるで駄々をこねる子どもに言い聞かせるような柔らかい口ぶり。


「でも……」


テーブルの上に置かれたお見合い写真の表紙と、父の表情を交互に見つめる。
腕を組んだ父は、眉尻を下げて優しく頷いた。

実家の【日本料理 毛利亭(もうりてい)】の婿である父は、やり手の女将の祖母や、その性質を受け継いだ母を陰でそっと見守る存在だ。
老舗高級料亭の帳場責任者としていつも冷静で、決して声を荒げず動じない性格。

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