最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
麻那は私を心配して、最近はますます連れ添う頻度が多くなった。それもしばしできなくなるので、彼女は眉を下げて甘えた声を出す。


「ひとちゃんがいないの寂しいよ~。ひとりで社食行ってもつまらないし」
「気にするのはそこか」


口の端を引つらせる私に構わず、彼女は手をぎゅっと握ってくる。


「赤ちゃん生まれたら真っ先に会いに行くからね!」
「うん、待ってる。私も麻那の可愛くない発言が恋しくなりそうだから」
「どぉいうこと?」


急にしかめっ面になる麻那に笑っていると、彼女の後方でなにやらざわついている。高海と、彼と親しい男性陣だ。

すると、「高海もなんか言えよ」と促す社員たちの手によって、彼が私の目の前に押し出された。どうやら高海にひとときの別れの言葉をかけさせたかったらしい。

迷惑そうな顔をしていた彼だが、私を見下ろしてボソッと声をかける。


「……生きて戻ってこい」
「戦争に行くのか私は」


即行でツッコむと笑い声が上がった。

でも、出産が命懸けであるのは確かだし、高海が結構真面目に心配してくれているのもわかる。

目線を上げて「ありがとね」と微笑むと、彼も緩やかに口角を上げ、小さく頷いた。
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