最後の一夜のはずが、愛の証を身ごもりました~トツキトオカの切愛夫婦事情~
私は結婚する前から彼に憧れていた。政略的とはいえ、好意を抱く人と夫婦として暮らすのは決して嫌ではなかった。

ただ、私だけが恋心を抱いている同居生活は、これ以上続けてもきっと意味がない。想いが膨らむほどつらくなるのがわかりきっているから、そうなる前に終わらせたいと思ったのだ。


「慧さんが社長に就任されて一年が経ちますが、事業も円滑に進んでいますし、私の役目は終わったも同然かと」


平静なフリをしてそう言いながらも、やはり心の奥では寂しさを感じて瞼を伏せた。

今はまだ夫である畔上(あぜがみ) 慧は、約一年前に私たちが勤めるインターネット広告制作会社〝ジョインプレッション〟の新社長に就任した。

私との結婚はその地位につくための条件のひとつにしかすぎなかったので、すでにお役御免になっているはず。


「俺は君を必要としているが」


さらりとそんなひとことを口にされ、私はふっと目線を上げる。


「一絵がいることで、俺は仕事に集中できる。いてもらうに越したことはない。そもそも一年足らずで離婚なんて、松岡(まつおか)社長が許さないだろう」


ドキリとしたのはつかの間で、彼が必要としているのは〝自分の代わりに家事をこなす妻〟なのだと理解してやや肩を落とした。うっかり期待してしまった自分が恨めしい。
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