逢いたくて・・・今~和弘side~
香耶乃(かやの)、もう、これっきりにしないか」

香耶乃がどんな反応するか、ドキドキものだった。香耶乃は、目を潤ませて言った。

「どうして・・・私、何か悪いことした?」

うかがうように、聞く香耶乃。違うんだ、悪いのは君じゃない。香耶乃を傷つけるのを覚悟で言った。

「好きな人が出来たんだ」

「誰?」

「僕の会社の秘書課の日下部律子(くさかべ りつこ)さんだ」

その名前には、覚えがあったはずだ。彼女から告白されたころ、僕は相手にする気がなくて香耶乃に愚痴っていたのだから。まさか、こんな展開になるなんて、思ってもみなかった。彼女の押しは思ったより強く、ついこのあいだ超えてはいけない一線を越えてしまった。このまま、香耶乃と何事もなかったように続けることは出来ない。

「別れたくない・・・よ」

泣きそうな顔で香耶乃が言う。僕だって、別れたくない。だけど、僕は香耶乃を裏切った。その代償を受けなければならない。

「僕の心は、もう君にはない」

僕の心がズキンと痛んだ。この言葉を聞いて、香耶乃がどんなに傷つくか。香耶乃が好きだ。一晩の過ちの許しを乞えば、君は許してくれるだろうか。

「そう・・・幸せになってね」

君は、強いんだな、香耶乃。君なら、僕よりもっといいヤツにきっと出会える。

「君も・・・じゃあ」

そういって、カフェを出た。終わってしまった。いや、僕が終わらせてしまったんだ。
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