強引な無気力男子と女王子
 『王子様』
 その言葉が頭にこびりついた。
 お金がいらないところ?
 プレゼントをくれない?
 『—————』
 段々アカリちゃんの声が遠のいていく。
 聞こえているはずなのに、言葉が理解できない。
 理解するのを脳が拒んでいる。
 思っていたのと違う?
 —ふざけるな。
 私の顔で、私の中身まで決めつけるなよ。
 ぐるぐると黒い怒りが私の中で渦巻いて、弾けて、溢れた。
 『ふざけるなよ!このブス!』
 そこまで言って我に返った。
 私の声は、よく響いて教室がシン、と静まり返る。
 視線が痛いほど刺さった。
 『あ、い、今のは・・・』
 『う、うわあぁぁん!』
 泣き出したアカリちゃんを女子が支える。
 『ちょっと女の子になんてこと言うのよ!』
 『真紘くん、そんなに酷い人だったの!?』
 女子から非難の声が上がる。
 『やーい、最低なおとこおんな!』
 『あーあ!泣かせた!』
 男子からの野次も私の心をえぐる。
 まるで私が一方的に悪で。
 教室中の全てが私の敵になったみたいだった。
 どうにか二本の足で立っている。
 足の感覚以外なかった。
 泣いているアカリちゃんと目が合う。
 目の縁いっぱいに水を溜めたアカリちゃんが近づいてくる。
 足が地面に張り付いたみたいに動けなかった。
 そのままアカリちゃんは私に平手打ちをする。
 乾いた音がやけに大きく聞こえた。



 「それからのことはよく覚えてないんだけど。中学校からは王子の仮面を貼り付けて過ごした。そっちのほうが周りに人が寄ってくるし、楽だったから。・・・それから、いつ自分の素を出せば良いのかわからなくなった。日葵がいなければ私は本当に壊れていたかもしれない」
 今までの思いを吐き出すように一つ一つ呟いて悠理のほうを見据えた。
 「だから、私は人と付き合うのが怖いの。女子を泣かせた、それだけのことと言ってしまえばそうなんだけど。でも、やっぱり怖いんだ」
 なんだか、自分がものすごく醜くて、心の狭い最低な奴に思えて恥ずかしくなる。
 悠理から、顔を逸らす。
 『王子様』
 その言葉は私にとって呪いだった。
 『王子様』を演じていなければまるで私に存在価値がないと言われているようで。
 俯くと、ポタポタと涙がこぼれて、座っていたソファにシミを作る。
 突然、頭に柔らかいものが置かれた。
 「・・・え?」
 悠理が、無言で私の頭を撫でている。
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