強引な無気力男子と女王子

文化祭

 「真紘、おはっよ~!」
 「おはよ・・・」
 まだ眠たくて、出そうになったあくびを嚙み殺して日葵に挨拶を返す。
 色んなことがあった夏休みも終わり、二学期が昨日から始まった。
 途中で会った日葵と学校に向かう。
 「まだ暑いよね~。私、溶けちゃいそう」
 そう言いながら日葵はパタパタと手のひらで顔に風を送る動作を繰り返す。
 「ん」
 「あ、ありがとう!さっすが真紘!」
 ハンディファンを受け取った日葵は満面の笑顔でそれを使いだす。
 「ふぅ、極楽極楽」
 「それって、温泉につかったおじいちゃんのセリフじゃないの?」
 「なんでもいいじゃーん!」
 タタタッと数歩前に出て、日葵はおかしそうに笑った。
 「そういえば、今日は文化祭の出し物について決めるんだって~」
 「え?そうなの?」
 「真紘、知らなかったの?クラス委員の子が、クラスのライングループで言ってたよ?」
 慣れた手つきでスマホを起動させ、ラインを確認する。
 「あ、本当だ」
 「ね?」
 確かにそこには、「明日、文化祭について決めるのでやりたい出し物がある人は案を固めといてください。一年生は教室展示です」と、丁寧な言葉で連絡が来ていた。
 私が通う学校は一年生と三年生が教室展示で、二年生が舞台発表なんだよね。
 なんて、どうでもいいことを考える。
 「真紘は?何かやりたいことある?」
 「うーん、特にないかなあ」
 「私は漫画喫茶とか、カラオケとか、ババ抜きとかやりたいな!」
 「放課後に自分一人でやってください」
 その三つは絶対文化祭という場でやることじゃないでしょ。
 「じゃあ、今日放課後カラオケ行こ、真紘!」
 「いいよ、特に予定ないし」
 「やったぁ!」
 ころころと、鈴を転がしたように日葵ははしゃぐ。
 「点数、勝負しようね!」
 「オッケー」
 「あー、早く放課後にならないかなあ」
 「まだ学校にすら到着してないけど」
 「そうだった!」
 「急ご、遅れる」
 「うん!」
 遅れないように、少しだけ歩くスピードを速めた。

 「何か案がある人、手を挙げてください」
 教卓に手をついて、クラス委員の山本君がハキハキとした口調で尋ねる。
 山本君の後ろでは、関さんがチョークを持って黒板に「出し物・案」ときれいな文字で書いた。
 何人かがすぐに手を挙げる。
 「お化け屋敷!」
 「クレープ屋!」
 「たこ焼き!」
 「メイドカフェ!」
 などなど、出た案を関さんが黒板にまとめる。
< 74 / 107 >

この作品をシェア

pagetop