月に魔法をかけられて
やっとベッドから起き上がったのは14時過ぎ。

副社長と2人でランチという名のこの日初めての食事をしていると、テレビから武田絵奈に関する芸能ニュースが飛び込んできた。


【モデルの武田絵奈、
芸能活動を一時休止して海外留学へ】


タイムリーすぎる話題に思わず副社長を見つめると、副社長はテレビの画面にチラリと氷のような冷たい視線を向けたあと、全く興味がないのか、ミートソースのパスタをフォークでくるくると巻きながら口に入れていた。


芸能レポーターの話では、留学先、留学期間はまだ未定だが、短期間ではなく長期間の留学であるということ、本人には昔から海外に行きたいという夢があり、留学先では語学と演技を学び、活動の幅を広げるのが目的だということ、突然の休業なので、今契約しているCM6本は今後クライアントと相談して、クライアント側がOKであれば契約期間が切れるまでは流れるということ、ただ、ルナ・ボーテの化粧品のCMだけは既に話し合いが終わっており、契約解除になったということだった。


私は副社長の様子をチラチラと窺いながら、そういえば今週、私が関与していないアポイントが2回あったことを思い出し、ハッとしながら口を開いた。

「壮真さん、このニュース知っていたんですか?」

副社長の変化を少しでも見逃さないように、じっと見つめる。

「ああ、知ってたよ」

「もしかして……、今週2回ほど打ち合わせと言って外出されてましたよね? あれって……」

言っていいものかどうか表情を確認しながら見つめていると、副社長は手に持っていたお茶をゴクリと飲んだあと、静かにグラスをテーブルの上に置いた。
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