揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
「あのね。」


そして翌日の会社帰り、鈴と達也は待ち合わせて、夕飯を共にした。部署が違う2人は、社内では相変わらず、あまり顔を合わすこともなく、退社時間もバラバラだった。


付き合い始めた当初は、早く終わった方が待っていて、毎日のようにデートをしたり、一緒に帰ったりしていたが、最近はそのペースも落ち着き、会社帰りに会うことは少なくなり、もっばら週末のデートがメインになっていた。


でも、今日は梨乃に発破をかけられたこともあり、鈴が誘ったのだ。


食事も終わり、食後のコーヒーを楽しんでいた2人だが、頃合いを見て、鈴が切り出した。


「うん、なんだい?」


自分の言葉に、いつものように優しく応じてくれる達也の姿に、改めてドキッとする鈴。まして、これから切り出そうとしている内容を考えると、余計にドキドキが増して来る。


「私達、そろそろ付き合い始めてから、1年だよね。」


「そうか、そうなるな。考えてみると、早いもんだなぁ。」


達也は頷く。


「それで・・・。」


一瞬躊躇った鈴は、でも勇気を振り絞って続けた。


「なにか、記念に残ることしたいなぁって。」


「記念に残ることかぁ。なにがいいかな?」


そう尋ねる達也に


「一緒に旅行・・・なんてどうかな?」


なんとか普通に言おうとしたが、やはり無理。顔が赤くなっているのが、自分でもハッキリわかったが、上目遣いで恐る恐る、鈴は言った。


瞬間、また空気が固まる。達也が息を呑んだように自分を見ているのを感じて


(女からそんなこと言うなんて、やっぱり引かれちゃった・・・。)


途端に後悔に沈む鈴。ただ一度、発してしまった言葉を取り消す術はなく、思わず俯く。


一方の達也の思いは、違っていた。


(また鈴に言わせてしまった・・・。)


自分達の関係を進める為に、いつも勇気を振り絞っているのは鈴で、結局俺はその鈴の気持ちに、いつも甘えているだけじゃないか・・・。


自分で自分が情けなくなった達也は、恥ずかしそうに俯いている鈴に


「そうだね。」


と力強く頷いてみせた。


「達也さん。」


その達也の返事に、鈴の表情はパッと明るくなる。


「是非そうしようよ。9月に連休があるから、そこで行こう。場所は・・・どこか海の見えるところなんて、どう?」


「うん。達也さん、ありがとう!」


鈴は、一転して、満面の笑みになった。
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