揺れる想い〜その愛は、ホンモノですか?〜
自宅に戻った達也は、厳しい表情で考えていた。


(このままじゃ、駄目だ。)


男として、鈴を全くリード出来ないまま、1年が経とうとしている。


「優しい」「紳士」今はこの2つのキーワードが、鈴に自分を素敵な彼氏に見せている。


この前のファーストキスの時の顛末なんて、本来ならダメダメの話で、幻滅されることこそあっても、自分の株が逆に上がるなんてことは、あり得ないはずだった。


(いつまでも、こんな幸運が続くわけがない。今度の旅行こそ、俺が主導権を握って、鈴をキチンとエスコートしないと。絶対に、素敵な思い出を作れるようにしないと。)


旅行先、宿舎の選択に旅行中の日程まで、鈴に喜んでもらえるように、自分でプランを立てよう。達也はそう、心に決めた。


それから。いつになく、積極的にいろいろな提案をしてくる達也が、鈴も嬉しいようだった。学生時代には貧乏一人旅が好きで、社会人になってからも、旅行が数少ない趣味である達也は、もちろん女子と二人旅の経験なんか、全くなかったが、鈴に見せたい景色がいくつかあるらしかった。


「ありがとう、達也さん。なんか凄く楽しみ。」


「鈴がそう言ってくれると嬉しいな。期待を裏切らないようにしないと。」


そんなことを話しながら、指折り数えて、出発日を待っていた2人だったが、思わぬ事態が持ち上がった。


それは鈴が、今度の連休に友達と旅行に行くと母親に告げたことから始まった。


「友達って、誰?」


やや表情を険しくして、尋ねて来た良子に、鈴は気遅れしてしまう。


「うん、会社の先輩、なんだけど・・・。」


「先輩?さっきは友達って言ったでしょ。」


「う、うん、先輩なんだ。」


「男性じゃないでしょうね?」


「えっ?」


そう切り込まれて、鈴は思わず絶句してしまう。


「やっぱりね。」


と母親は頷いた。


「お付き合いしている人がいるのは、前からわかってた。あなたももう大人だし、そんなことにいちいち目くじら立てたり、うるさく干渉するつもりはなかったけど、泊まりでどこかに一緒に行くような間柄になったんなら、話は別よ。」


そう言うと良子は鋭い視線を鈴に送る。


「どういう男性なのか、1度お目にかからないと。」


「お母さん・・・。」


一度言い出したら、絶対に引かない母親の性格はよくわかっている。鈴は内心ため息をついた。
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