嘘吐きな王子様は苦くて甘い
第十三章「一人じゃないから」
「大倉さん!大倉さん!」

旭君と公園で話した翌日の、授業と授業の間の十分休憩に入ってすぐ。教室のドアのところで私の名前を大声で呼ばれた。

「前橋さん!?」

ドアに駆け寄ると、前橋さんが血相を変えて立ってる。

「大変だよ、石原君が!」

前橋さんは、旭君と同じ三組だ。

「石原君?」

「クラスの男子達と大声で言い合いしてる!」

「え!」

その言葉に、私は教室から飛び出した。

「お前ウゼェんだよ離せ!」

三組の教室の中から聞こえてくる怒鳴り声。私はガラッと勢いよくドアを開ける。

目に飛び込んできたのは、旭君と彼を取り囲むように男子が三人。どう見ても、楽しくお喋りって雰囲気じゃない。

その辺りだけ雰囲気が異様で、三組の他の人達は少し離れた辺りからヒソヒソと言い合いながら旭君達を見てるだけだった。

「どーでもいんだよお前らのことなんか!」

旭君に腕を掴まれてる男子が大声を出しながら旭君に抵抗してる。旭君は今までに見たことがないような鋭い視線で、目の前の男子をジッと睨んでる。

「いいから訂正しろよ」

初めて聞く、旭君の唸るような低い声。それだけで、背筋がブルッと震えてしまう。

「何で指図されなきゃいけねぇんだよ!」

「訂正しろ。するまで離さねぇ」

「はぁ!?マジ調子乗ってんじゃねぇぞ旭!」

「乗ってんのテメェらだろ?つかそんなん俺には関係ねぇし。お前らがどうだろうと興味ねんだよ」

「このヤロ…っ」

「許さねぇ」

旭君の声色が、一層低くなる。手の力を強めたのか、掴まれてる相手の男子がさっきよりも表情を歪めながら腕をブンブンと振り回した。

「ってぇな!おいコイツなんとかしろよ!」

その言葉で、旭君の周りを取り囲んでいた男子達が動き出す。私は、勢いよく前に突っ込んでいった。








「やめてっ!!」

旭君に手を伸ばそうとしていた男子達と旭君の間に、半ば転がるようにして入り込んだ。

男子達が目を見開いたのが見えたけど咄嗟のことに行動を変えられなかったのか、そのまま私に向かって手を突き出した。

「ひまり!!」

強い力で突き飛ばされて、派手に後ろに飛ぶ。誰かの机に背中からぶつかって、あまりの痛みに立ってられなくてその勢いのまま倒れ込む。

「っ」

「キャー!」

「え、だ、誰!?」

「大倉さんだよこの人!」

さっきまで傍観してたクラスの人達が一斉に騒めき出すのを耳の端で聞く。

「大倉さん!」

悲鳴みたいな、前橋さんの声も。

「ひまり!おいひまり!どこ打った!?大丈夫か!?」

旭君の声だけが、すぐ側で聞こえた。

「あ、さひく」

背中を強く打ったせいで、上手く喋れない。大丈夫だって言いたいのに、ちゃんと言葉が出てこなかった。

「私先生呼んでくる!」

前橋さんの声だ。お礼言いたいのに、それも上手く言えない。

「ひまり、大丈夫かひまり!」

私の体を優しく抱き起しながら必死で呼びかける旭君に、私はニコッと笑顔を作ったけど。

旭君は益々、悲痛な表情をしただけだった。
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