嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「こんな広まったの、俺のせい。アイツら俺がひまりに本気って知ってて、遊びだって言いまくってる。しかもこれが初めてじゃなくて、今までにも俺らと同じような遊びやってるヤツだってな」

「…」

「ごめん、ひまり。色々言われてんの、お前は何も悪くないから」

「…」

「巻き込んで、ごめん」

こんな旭君の表情、前にもみたことがある。最初の告白は私を守る為の嘘だって、私に打ち明けた時だ。

あの時も旭君は、こんな悲しげな瞳をしてて。

いつもと全然違うその顔に、私は凄く胸が締め付けられたんだ。

「…」

旭君はまた視線を下に向けて黙り込んだ。彼はきっと、私から何て言われるか怖いんだと思う。

自信満々に見える旭君は、本当はとても臆病だ。

「旭君」

彼の膝に、そっと手の平を乗せる。

「ごめんね、旭君」

私も旭君と同じように、謝罪の言葉を口にした。

旭君がパッと顔を上げる。

「何でお前が謝んの?」

「旭君が同じクラスの人達からそんな風に思われてたこと、私知らなかったから」

「…」

「最近初めて知ったんだ。人から悪意を向けられるのがこんなに怖いものなんだって。事実と違うこと言われて嫌な気持ちになって腹も立ったし言い返しちゃったけど、やっぱり凄く傷付いた」

「…」

「旭君平気そうな顔してたけど、絶対そんなことないと思うから。私がもっといっぱい、旭君の話を聞けばよかったって後悔してる」

「…」

「だから、ごめんね」

旭君は一瞬顔をクシャッと歪めて、それから私を引き寄せて。

力強く、抱き締めた。









「あ、旭君!?」

「…んで」

私の肩口に顔を埋めて、旭君は小さく呟く。

「何でいっつも俺のことばっかなんだよ。お前は何も悪いことしてねぇのに俺のせいであることないこと言われて、俺のせいで辛い思いして。なのに何で…っ」

「好きだから」

その言葉は、凄く自然に口から溢れた。

「旭君のこと、大好きだから。他の人になんて言われたって私は、旭君を信じてる」

「っ」

「旭君ってね、意外と分かりやすいんだよ?素直じゃないからあんまり本音は言ってくれないけど、見てたら大体分かるんだよ?」

小さく笑えば、旭君の腕の力が更に強くなる。

「…んなの、お前だけだっつの」

「フフッ」

「ひまり」

「何?」

「大好き」

耳元で言われるその言葉は、私の心臓を簡単に破裂させてしまう位の威力を持ってて。

更に旭君が甘えるみたいに私の首元に擦り寄るから、私の思考は完全にストップしてしまった。
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