紅に染まる〜Lies or truth〜
・・・

・・・・・・
・・・










「ほら愛、高いだろう!」


「うん!いっぺーありがとう」


広いお庭に太い枝ぶりの木
そこに兄妹で並んで座っていた


先に登っていたのは兄


自分では登れない枝におねだりしてあげてもらった


怖くてたまらない高さを
消し去ったのは


遠くの山も輝いて見える程の景色だった


「愛様〜!」


微かに聞こえる声に
ビクッと揺らした肩をトントンと叩いた兄は


「ちょっとここで待てるか?アイツ撒いてくるから!」


悪戯っ子のような顔をして見せた


「うん!愛、待ってる」


笑顔を見せると釣られた兄が破顔して

いつものように
「愛は可愛い」
と頭を撫でるとヒラリ枝から飛び降りた


「いっぺー」


「大丈夫だ、愛」


「うん」


そこから
ただ、ただ兄を待った

遠くに聞こえる


「愛様〜」


捜索の声に肩を竦めながら
かくれんぼが楽しくて
時を忘れていた


でも・・・
いつまで経っても戻って来ない兄


「いっぺー」


宙ぶらりんの足も
しっかり掴まった筈の幹も

いつもは見えない景色も

どんどん色褪せて・・・
だんだん寂しくなって・・・

ポロポロ涙が零れ落ちた


ガサッ


「・・・だれ?」


「あ?」
座っている枝の下に頭が見えた


「だれ?」


頭の上からの声にキョロキョロしながらこちらを見上げて固まった男


「チビ!ここで何してる」
見開いた目と焦った声

それよりも


「ち、ちびじゃないもん」


チビなんて言われたことがない


「ちゃんと愛《あい》って名前があるんです!」と
頬を膨らませると


「ハハハ」
男は大きな声で笑った


「愛、降りてこい」


「・・・」


「降りられないのか?」


「うん」
高くて怖い


「じゃあ、飛べ」


「え?」
もっと怖い


「俺が受け止めてやる」


「ほんと?」


「あぁ」


真っ黒な髪がツンツンと立ててあって
細い眉毛が兄よりカッコいい

耳の赤いピアスに触れたくて

広げられた両腕とブラウンの瞳に吸い込まれるように
掴んでいた枝から飛び降りた




「キャァァァ」















< 74 / 227 >

この作品をシェア

pagetop