紅に染まる〜Lies or truth〜



「愛様っっ!!」



急に走り出した私を見て
車の脇で待っていた天井さんが焦って駆けて来ようとした


「お待たせ」


なんでもないことのように近づくと

少し眉を下げて


「おかえりなさいませ、愛様」


天井さんは胸を撫で下ろした


・・・過保護過ぎ


守られている身を想いながら
開かれたドアの中へ身体を滑り込ませた


「颯のところへ寄って」


「畏まりました」


骨折と打撲のボロボロ颯が
入院して三日が経っていた


・・・そろそろかな


あの日以来顔を見せてないから
耳も尻尾も下がりっぱなしだろう


「・・・っ」


窓に映る自分が
少し笑っていることに気づいた


「馬鹿みたい」


少し呟いて・・・
少しため息・・・


「・・・愛様?」


「天井さん、やっぱ帰る」


「・・・畏まりました」



流れる景色が不自然に逆戻りし始めると目を閉じた


人と関わっている場合じゃない

自分には動かさなきゃならない世界がある

私情は身を滅ぼす

17歳の自分を忘れて・・・

頭の中を切り替えようとしたのに


不意にポケットの中で震えだした携帯の画面を見て

全部吹き飛んだ



「天井さん、やっぱ颯の病院」


「は、はいっ!」








【愛に会いたい・・・颯】







「犬の癖に」

飼い主を動かすなんて・・・



そう呟きながら
もう窓ガラスを見ることはなかった













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