脆い記憶
memory3. 冬の兎
目を覚ますと窓の外がオレンジ色に染まっている

夕方だ

あの後寝てしまったことに気づいた

リビングの窓が開いていて
そこから夕方の風が入ってくる

風で揺れる薄いカーテンの隙間からベランダに立つこうちゃんの姿がチラチラと見える

ベッドから起き上がってゆっくりと窓に近寄る

穏やかな風にふわふわと揺れている黒髪

私の気配を感じたこうちゃんが振り向いた

私の顔を見てニッと笑った顔が夕陽に照らされていてとても綺麗でなんだか泣きそう

「晴、こっちおいで」

伸びた手が私の手首をみつけて引っ張る

「やっと晴の声で俺の名前を呼んでもらえてめっちゃ嬉しかった」私の耳元で低い声で喋るもんだから少しくすぐったい

「コレ、いつか返せる日が来ると信じて大切にしといた」

こうちゃんの掌で何かが小さく光っている

「これって・・・・」

「さっきみた写真に写ってたやろ?俺と晴お揃いのピアス。こっちは晴の方。で、俺のは・・・」
こうちゃんが耳に髪をかけると左耳で同じピアスが光っていた

「ありがとう」
こうちゃんからピアスを受取り
自分の右耳のピアス穴に通した

「でも全部を思い出したわけじゃないの。ごめんね」

「謝らんといて。晴は何も悪くない。悪いのは俺やからさ」

またこうちゃんは悲しそうにニッと笑ってる

「なんで?こうちゃんも悪くないよ」

根拠も何もないけどそんな気がしたからそう言った


「さ、夜メシでも行く?」

次はニカッと首を傾げて笑っている

この笑顔の方が何倍もいい

「涼しいしさ、何か買って川沿いで食べよっか」

「そうだね」


濡れた服はもうとっくに乾いている

こうちゃんに借りた服から着替えて部屋を出て近くのコンビニで今日の夕食などを買い川沿いに向かった



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