脆い記憶
memory5. 証のピアス


「こうちゃん!!!」


自分の大声に驚いた

目に飛び込んできたのはいくつもの穴が空いた白い板

たぶんこれは天井かな?

どうも私は仰向けに寝ている

ゆっくりと顔を横に向けようとするが体中が軋んで痛い

顔を横に向けると窓がある

綺麗な朝焼けに目が眩む

「晴ちゃん?晴ちゃん!よかった!ちょっと待っててね!」

私のお母さんの声がする

お母さんが慌てて走って行ったようだ

なんでお母さんがいるの?


ここは病室のようだった


さっきまでこうちゃんの部屋にいたのに

あの後こうちゃんの部屋を後にして帰宅したのか?


何も思い出せない


息を切らしてお母さんが戻ってきた

「晴ちゃん、お母さんの事わかる?声は出せる?どこか痛いところはない?」

私を質問攻めしたかと思えば
当然わっと泣き出した

「晴ちゃん、次こそはもうダメかと思っちゃったよ・・・もう、心配させないで」

こんな状況
前にもあった
あの事故の後・・・

ということは私はまた事故に遭ったの?


いつ?


私が混乱していることに気付いたお母さんはゆっくりと事故の様子や今の状況を話し出してくれた


「晴ちゃん、昨日あの街に遊びに行ったでしょ?昨日事故に遭ったのよ。車と衝突する事故」

あの街に行ってすぐにこうちゃんをみつけて
それで・・・
こうちゃんに助けてもらって・・・


・・・こうちゃんは?

「私は車にぶつかったの?」

「・・・・」
なぜかお母さんは黙って私をみている

「私と一緒に男の人はいなかった?たぶんお母さんも知ってるよ?こうちゃん。幸樹くんだよ。いなかった?」

「晴ちゃん、幸樹くんのこと思い出したの?」

「うん。こうちゃんの事も、あの日の事故の事も思い出せたの。こうちゃんのおかげでね」

「そう」と呟いたお母さんの唇が震えている

「晴ちゃん、これね幸樹くんから」

母が私に何か小さいものを手渡してぎゅっと手を握りしめた

掌の中でチクッと私の皮膚に触れている

ゆっくりと掌を広げるとそこにあったのは
小さく光るあのピアスだ

「これ・・・私、耳につけてたはずなのに取れたのかな・・・」

「幸樹くんが救急隊員の人に預けたみたいよ」


お母さんの言ってることが理解できない


私はこうちゃんから直接このピアスを受け取ったのに・・・


頭の中が混乱してきた


「それでこうちゃんは?同じ病院にいるの?ケガは?」

「ええ。同じ病院にいるよ。ケガは擦り傷程度だったみたいだけど、頭にね・・・」

「頭!?こうちゃんの病室に連れて行って!」
 
さっきまで泣いてたお母さんの顔が覚悟を決めたみたいにぐっと強くなった
するとふうっと息を吐いて話し始めた

「晴ちゃん、落ち着いて聞いて?・・・あのね、幸樹くんは車にぶつかりそうになった晴ちゃんを助けてくれたのよ」

うん
知ってる


なんだか耳がボーっとする


もうお母さんの話を聞きたくない


なぜかもう続きを聞きたくない


「晴ちゃんは幸樹くんが胸に抱えてくれてたから打撲と擦り傷で済んだんだけど、幸樹くんは頭を強く打ったみたいで・・・それでね・・・
脳死だっ・・・て」

お母さんは自分の口を押さえて声を殺して泣いてる


・・・なんて言った?


・・・なにが?


私とこうちゃんはさっきまで一緒にいたし

沢山話して沢山触れ合った

こうちゃんの体温もはっきりと覚えてるし
感触もまだ残ってる

なのに

死んだって・・・こうちゃんが?

いつ・・・?

いつこうちゃんは死んじゃったの?
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