ズルくてもいいから抱きしめて。

姫乃の場合②

慎二が6年前の真相を話してくれた。

全て聞き終え、私は愕然とした。

私が失恋だのなんだのと悲しんでいた頃、慎二はもっと辛い思いをしていた。

自分が辛い中でも、自分のことより私のことを考えて別れを選んだんだ。

「何も知らなくて、、、何もできなくて、、、ごめんなさい。」

「姫乃が謝ることじゃないよ。知らせなかったのは俺なんだから。」

「それでも、私はこの6年間ずっと慎二のこと恨んでた。慎二は私のためにそうしてくれたのに、、、知らなくても最低だよ。」

慎二は、自分が悪者になってまで私の幸せを考えてくれた。

そうだ、この人はこういう人だった。

いつも自分のことより他人のことを優先にするような、とても優しい人だった。

どうして気付けなかったのだろう?

どうして私は彼を恨むことしかできなかったのだろう?

「ねぇ、姫乃。俺はね、もしあのとき君に真実を話していたらどうなってたかな?ってよく考えるんだ。でも、答えはいつも同じなんだよ、、、。遅かれ早かれ、俺たちはダメになってたと思う。」

「えっ?どうして?」

「姫乃は、忙しい俺のために寂しくてもいつも我慢してくれてたよね。俺は俺で、そんな姫乃の気持ちに気付いていながら甘えてたんだよ。お互い自分の気持ちを正直に話して来なかった。それが俺たちだったんだよ。」

「うん、、、そうかもしれない。私は慎二の夢を応援したかったから、“会いたい”とか“寂しい”なんて言って困らせたくなかったし、嫌われたくなかった。付き合っていても、いつも片想いしてる気分だった。でも、、、言わないと伝わるわけないよね。」

慎二が6年前、私に真実を話さず消えたのは、きっとそういう危うい関係性によるものだったのかもしれない。

もしお互い本音が言い合える関係だったら、きっと何があっても言いやすい雰囲気だったと思う。

「姫乃は、今幸せ?」

慎二からそんな風に問われるとは思っていなかったから、少し驚いたけれど私は迷いなく答えた。

「うん、すごく幸せだよ。」

< 37 / 101 >

この作品をシェア

pagetop