翠玉の監察医 零度の教室
一 真夜中の出来事
十八歳という若さで監察医として働く神楽蘭(かぐららん)は、エメラルドのブローチを手に取り、ぼんやりと眺めていた。

もうすぐ日付が変わる。窓の外には大きな月が見えていた。蘭はベッドに腰掛け、耳にイヤホンをさしている。

蘭にとってスマホはただ誰かと連絡を取り合うためのものだ。TwitterやInstagramなどのSNSは入れていないし、ゲームなどももちろんない。YouTubeなども開けることはほとんどないのだ。

「Let it be,let it be,let it be,let it be」

静寂の中、暗い部屋に蘭の小さな歌声が響く。蘭が唯一聴く音楽だ。

『この歌、すごく好きなんだ。心が穏やかになれる』

歌い続ける蘭の頭に、この曲を教えてもらった時のことが思い出される。あれは蘭がアメリカで暮らし始めた頃のことだった。

「星夜(せいや)さん、あなたにまた逢いたいです……」

ブローチを握り締め、蘭は呟く。イヤホンからは変わらず音楽が鳴り響いていた。
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