その手をつかんで
「急用ですか? 私なら大丈夫ですよ。ここから電車で帰りますから」


装着したシートベルトを外そうしたけれど、蓮斗さんに止められた。


「通り道になるから、送らせて。少しでも一緒にいたい」

「ありがとうございます」


車を走らせること、20分。私の住むマンションの駐車場で、車を停車させる。今度こそ降りなくちゃ。

しかし、またもや蓮斗さんに止められる。私の肩を掴んだ彼は、顔を接近させてきた。


「えっと、蓮斗さん?」

「好きだよ」

「えっ……」


返事をするより先に唇が重なった。軽く触れただけだったけど、ふんわりした優しいキスだ。

離れた蓮斗さんは私の髪を撫でながら、微笑む。


「一応ふたりしかいない場所だからね」

「そうですけど……ビックリしました。いきなりは困ります」

「困ってばかりいるね。でも、困る明日花もかわいい。もっと一緒にいたいけど、我慢するしかない。夜に連絡するから」

「はい、待っています」


蓮斗さんは手を振ったが、たくさんの袋を抱えていた私は振り返せなかった。

本当に蓮斗さんの彼女になったんだ……。

じわじわと実感が湧いてくる夕方だった。
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