その手をつかんで
「私のために買ってくれるのは嬉しいですよ。でも、一度にたくさんは困ります。すみません、ほどほどでお願いします」

「うーん、わかった。残念だけど、今日の買い物は終わりにしようか」


……と言ったばかりなのに、「あのブーツ、明日花に似合いそう」とまた足を止めた。

私は「行きますよ」と引っ張る。

このショッピングモールは他よりも高級なショップが多く入っている。だから、気軽にあれこれ買えない。

そんな中で、買おうとしていたコートは比較的お手頃な価格だった。さすがに二着は変えないけれど。

私に手を引かれる形となった蓮斗さんは、「そうだった!」と思い出す。


「明日花の部屋に行くんだよね? 楽しみだなー」

「そんな楽しみにしないでください。ほんと小さな小さな部屋ですからね」


こんな狭いとはと、ビックリされそうで怖い。一応午前中に掃除はしてあるけれど。

蓮斗さんの車に乗った時、彼のスマホが着信を知らせた。

蓮斗さんは顔をしかめて「はい」と出たが、深刻そうな顔をして「とりあえず帰る」と通話を終わらせる。


「ごめん。家に帰らなくてはいけなくなって、明日花の部屋に行けない」
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