フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約

「お帰りなさい」
「ああ」

私の挨拶に短く返した真宮さんは、ビジネスバッグをこちらへ預けて、ふらふらとダイニングへ向かう。やっぱり、かなり疲れている感じ。
社長らしく身なりは隙がないほどきちんとしているけど、全身から疲労感がにじみ出てる。
私と出会った時も実家に挨拶に行ったときも、自信満々で不敵な雰囲気だったのに。 今は見る影もない。

そりゃ、毎日毎日ハードなお仕事みたいだものね。

けど、真宮さんが通りすぎた後にふと気になることがあったけど。それはいつもの人の出現で思考が切られた。

「また午前様でごめんなさいです! でも、システム関連でどうしても社長の力が必要だったので……」

すっとんきょうな声がエントランスホールに響く 。社長秘書の小椋(おぐら)さんだ。
真宮さんと同い年くらいの人で、中肉中背の平均的な日本人男性だ。 厚い黒ぶち眼鏡をかけてボサボサの黒髪。顔は取り立ててハンサムでもないけど、悪くもないってところ。

とにかく、声が甲高くて語尾を上げるしゃべり方だから、ずっと聞いてると頭が痛くなりそう。

「いえ、小椋さんも夜遅くまでお疲れ様です。よければ何か召し上がっていかれます? グラタンとコーンスープくらいですけど」
「えっ、いいんですか?わたくしお邪魔じゃないですか??」
「いいえ、ちっとも。むしろ無駄にならなくてありがたいくらいです」
「やった~!実はお腹ペコペコちゃんなんです!遠慮なくゴチになります!!」

無邪気に喜んでくれるのはいいんですが……広いホールにめちゃくちゃ声が響くので、もう少し控えめに声を出して欲しいです。

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