独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
番外編:カウントダウン

青空の中心点に向かって聳え立つ二棟の高層ビルを見上げ、葵はごくりと息を呑んだ。

「ここ、こんなに高かったっけ」

縮こまりそうな気持ちを振り払うため、分厚い資料を持った手に力がこもる。
口角を無理やり上げ、葵はゆっくりと後ろを振り返った。
彼女をここまで送り込んだリムジンの前に、白髪でスーツを着た初老が恭しく頭を下げる。
彼は葵専属のお手伝いさんだ。

「柾さんにお会いした後、少しカフェでのんびりして帰ります。またPHSへご連絡しますね」
「かしこまりました。駐車場でお待ちしておりますので、お疲れが出ましたらすぐにお呼びください」
「ええ」

せり出したお腹を片手で撫でながら、葵は歩き出した。
柾と結婚して二年――彼女の体には、二人の愛の結晶が宿っている。

既に妊娠九カ月目に入っており、出産予定日の一月十四日まで一カ月を切ったところ。

既に女の子が誕生することが分かっており、ベビーベッドやベビーバス、洋服から退院する際に使うおくるみまですべて家に揃っている。柾と二人で買いに行ったものも多いが、洋服やおもちゃなどは葵や柾の父親が二人に会うたびに、それらを家に置いていったのだった。

まだ生まれてもいない孫への溺愛っぷりを思い出しては、葵の頬は緩んでしまう。
柾が待つビルのエントランスをくぐりながら、彼女はかすかに振動した自分のお腹を撫でた。

(早くあなたに会いたい。お父さんも柾さんのお義父さんも……みんな楽しみにしているんだよ)
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