蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



「飛鳥さん、ごめんなさい
今日は帰ってください」


「・・・え」


酷く頭の中が混乱していて
頑なな心が軋む音が聞こえる


誤解が解けたから六年前に元通り・・・なんて

そんなに人の心は簡単だろうか


「蓮ちゃん」


切なく聞こえる飛鳥さんの声に
顔を上げることなく頭を下げた


「・・・また来るわね
おやすみ、蓮ちゃん」


スライド扉が閉まる音が聞こえると
ハァと大袈裟に息を吐き出した


悲劇のヒロインみたいになっていた
これまでの自分に問いかける


叶わなくても心の支えだった『おやくそく』

それが報われる日が来たはずなのに
捻れた気持ちは素直になることを躊躇う


同じ気持ちを持っていた二人が
ボタンの掛け違いで離れてしまった

それも完全に私の思い込みだけ

大ちゃんは今でも自分を責め続けている


掛け違えたボタンを戻したからと言って
はい仲直り!なんて都合が良過ぎじゃないだろうか


ポタポタと溢れはじめる涙は
一体何へ向けてのものなのか

自分でもよく分からない


ティッシュの箱を抱えて
グズグズと泣いているところへ


「蓮ちゃん」


岡部さんが消灯前の見回りに来た


「今日はずっと泣いてるのね」


ベッドサイドまで近づいて


「蓮ちゃんは難しく考え過ぎなの
人の気持ちなんてね頭の中で考えても無理
答えは教科書にも載ってないの
だから・・・
ぶつかって、喧嘩して、泣いて、笑って確認していくの
何も言わなくても察しろなんて戯言よ
全くの他人なんだもの相手を傷付けて、自分も傷付きながらお互いを知って積み重ねていくの」


そう言うと頭を撫でてくれた


「蓮ちゃんは相手に気持ちをぶつけたことある?」


「いいえ」


「人間はね気持ちを言葉にできる唯一の動物なの
その言葉に力を借りて想いを伝えてみたら?」





まるで大ちゃんとのことを知っているかのような岡部さんの言葉は


胸にスッと入ってきて
ジワリ広がった


















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