お見合いは未経験
1.いいお話って日本昔ばなしですか?
駅前の複合商業施設の中に、その銀行はある。

2階の営業課員はほとんど出てしまっていて、空席の目立つ中、自席で黙々と決裁をしているのは、榊原貴志《さかきばらたかし》だ。

きれいに後ろに全て撫でつけた髪や、フレームレスの眼鏡はいかにも『銀行員』といった雰囲気だが、よくよく見ると非常に整った顔立ちをしている。

銀行員らしい冷静な雰囲気と、白皙とも呼びたくなるような相貌。
口元に笑みを浮かべるだけで、表情には妖艶さが加わるはずだ。
営業で外回りをしていた頃は、おばさま方のハートを鷲掴みにし、全国表彰されること数回。

支店が優秀店舗として、表彰されたことで、現在の支店に次長となって異動してきたのだ。

しかし…
今はその榊原の魅力は、遺憾無く発揮されているとは言い難い。

上に行けば行くほど、現場とは離れ、決裁ばかりの日々だからだ。

支店で営業してた方が楽しいかもな。

書類を見るのは嫌いではないが、いい加減苦痛を感じる。営業の時は、客先を走り回り、近くには尊敬出来るライバルがいた。
上に上がりたい、と心から願ってはいたが…

また、差戻しかよ!
まともな書類くらい提出出来ないのか!?

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