お見合いは未経験
この支店に配属となり、約1年。
支社もある大きな支店なのだが、不備が多くて、榊原のストレスは溜まる一方だ。

役席ともなれば、日々大量の書類を決裁することが仕事のようになっている。

「榊原次長。」
「はい。」
「支社長がお呼びです。」
そう、声を掛けて来たのは支社の若手だ。

貴志が所属しているのは、個人を担当する『支店』になる。法人担当の『支社』は同じ店舗内にはあるものの、組織的には別なのだ。

榊原の上司は『支店長』になるので、『支社長』は直属の上司には当たらない。
だから、支社長になぜ呼び出されるのか、正直意味が分からない。

榊原は内心、支社長?と思ったものの、声にも顔にもそんな事は一切出すことはない。

「分かりました。」
すぐに返事をして、席を立った。
「失礼します。」
ノックをして、支社長室に入る。

中は応接セットもある、立派な個室だ。
「ああ、榊原次長、まあ、座って、座って。」
「はい。」
支社長に進められるまま、貴志は応接セットのソファに座った。

「君、結婚してなかったよね。」
「はい…」
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