あやかしあやなし
第一章
 ざざ、と涼やかな風が竹林を吹き抜ける。趣のある竹林の小路を抜けると、突如として目も眩むほどの石段が現れた。石段の頂上はどこなのか、下からでは見えないほどだ。
 が、心を決め、いざ石段を上り始めると、何故だか程なく視界が開け、これまた突如として大きな山門が立ちはだかる。その奥に、古い御堂がある。御堂自体は大きく立派なものだが、一般の人は足を踏み入れるのを躊躇うような、妙な空気が渦巻いている。

「ほぅ。おぬしが来てから、ここも随分明るくなったわい」

 茶を啜りながら息をつくのは、一体何歳なんだかわからないような老人だ。僧衣に包まれた身体は細く、枯れ木のよう。首から下げた数珠が、やけに重そうに見える。

惟道(これみち)が来てから、掃除が行き届いております故ー」

 元気に応えるのは、金色の目をした小童だ。開けた口からは、小振りだが人にはあり得ない牙が見える。

「建物自体が磨かれて明るくなったのもあるが、おぬしたち物の怪が増えたというのも大きいぞ」

「失礼なー。おいらはれっきとした妖怪ですー。物の怪ではありませーん」

「一緒じゃ一緒。物の怪も妖怪もひっくるめてあやかしよ」

 かかか、と笑う老人に、ぶぅ、と膨れ、小童はちろ、と横を見た。そこには周りの空気に溶け込むように、存在感の希薄な一人の少年。正確には少年と青年の間だろうか、若い男が静かに座っている。小童のように、明らかなる異形でもない。ただ顔立ちは整っているが、表情が一切なく能面のようだ。
 そして一際目を引くのが、額に広がる傷。鉤裂きのような傷の周りに、火傷のような痕が醜く広がっており、首にも大きな傷がある。
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