あやかしあやなし
「惟道、裏のお池の白玉が、また蛙が増えたって言ってたよ」

「鯉や亀と仲良ぅしてもらわんといかんな」

 能面のまま言いながら、惟道は刈り取った枝豆を笊に選り分ける。別の笊にはいくつかの芋と野草の類いが盛られており、小さなトカゲの物の怪が、二人(匹?)掛かりで芋を一つずつ洗いに行っている。よく見ると、惟道の膝の上にも小さな物の怪がおり、一緒になって枝豆を選り分けている。

「おぬしが来てから、物の怪たちもよぅ働くわい」

 からからと笑う老人も惟道同様、単なる人だが、それにしては周りが物の怪だらけである。しかも二人とも、特に気にする風でもない。

 老人はこの寺の和尚である。寺といっても元々この地は葬送の地で、周りに人家もないためほとんど廃寺だったのだが、それ故か物の怪が多く、和尚もその状況に慣れてしまったらしい。

 この和尚の人柄もあり、長年物の怪と仲良くやっていたところに、惟道がやってきた。

 惟道は元々播磨の外法師のところにいた。小さすぎて覚えていないが、おそらく捨て子であったのだろうと思う。感情の大きく欠落した惟道を気味悪がって捨てたのか、捨てられたから感情がなくなったのかは定かでないが、惟道には人としての感情というものが全くといっていいほどない。
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