アンコールだとかクソ喰らえ!
360度、甘いものには警戒を

 やっぱり、ああいうのはまずかったな。

「戸山」
「ごめん、私、遅かった?」
「や、まだ待ち合わせの時間前」
「そ、か、」

 なんて思ったのは、退院してから約一週間ほど経ったその日、検査結果も異常なしだと医師に告げられ、なら安心だなと己のスケジュールを確認してから(くだん)の彼に連絡しようとした瞬間だった。
 自分でも分かってる。絆されてるし、流されてることぐらい。
 だけど、私が意識不明だったときのことはよく知らないけれど、母以外で病室に足を運んでくれたのは来栖だけだったから、絆されるのは仕方ないかなとも思う。母(いわ)く、上司と同僚は事故の翌日に来てくれたけれど、それ以降の音沙汰はなかったらしいから。
 まぁ、そんなものだろう。私は大学も就職も地元にしたけれど、友人達のほとんどが高校卒業を機に、残りは就職を機に、微妙に田舎な地元を出て行ってしまっているから。同窓会の会場も、皆が集まりやすいように地元からは少し離れた場所だったから、報せを受けて病院に来た来栖の方が寧ろオカシイくらいだ。

「行こ。こっち」
「え、あ、うん」

 もちろん、この現状もちゃんと【オカシイ】とは思っている。

「戸山はさ、」
「うん?」
「紅茶、今でもまだ好きか?」
「え、うん。好きだよ」
「ん」
「え、何」
「店ついたら分かる」
「えぇ、何それ」

 六年も前に別れた元彼氏(一応)と、こんな風にまた、肩を並べて歩いているなんて、と。
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