今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)
 陽茉莉はキッチンの引き出しを開け、中からティースプーンを取り出してみせる。悠翔はきょとんととした表情を見せた。

「スプーンで皮が剥けるの?」
「剥けるよ。こうやって、アイスを掬うみたいに当てると簡単。ほらっ」

 陽茉莉は洗ったショウガをスプーンで掬い取るように擦る。すると、ショウガの皮は簡単に剥けた。

「わー、本当だ。僕もやりたい!」
「はい、どうぞー」

 目を輝かせる悠翔にショウガとスプーンを手渡すと、悠翔は早速夢中になって皮むきをしていた。ショウガの皮はスプーンで剥ける。これは昔、陽茉莉の母親が教えてくれた豆知識だ。

「お兄ちゃんに、僕が剥いたんだよって教えてあげる」
「そうだね。お兄ちゃん、びっくりしちゃうね」

 陽茉莉はくすくすと笑いながら、相槌を打つ。そして、壁際の掛け時計へと視線を移した。

(係長、遅いな)
< 173 / 296 >

この作品をシェア

pagetop