呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

小話 雨の日の一時



 呪いで猫になってしまい、困っていることはいろいろある。

 例えば、歩幅が小さいから目的地に辿り着くまで時間が掛かる。ドアノブを捻ることができないのでドアが開けられない。たまに尻尾の存在を忘れて危険な目に遭いそうになる。などなど。

 数えたらきりがないが、その中でもシンシアにとって頭を悩ますものが一つあった。




「ユフェ様、最近厨房に来てくれないと思ったらやっと来てくれたんですね。私、ずっと首を長くして待っていたんですよ!」

 祈るように手を組んで歓喜の声を上げるのは、厨房で働いている料理人だ。彼女からはロッテからご飯をもらえない時に何度も助けてもらった。

「ミャウゥ」

 自分も会いたかったと鳴いてみせると、彼女は感激した様子で瞳をキラキラと輝かせる。

「嗚呼、どうしてこんなにも可愛いんでしょう!! 明日三時のおやつに蜂蜜がかかったパンケーキを作っておくので食べに来てくださいね」

 パンケーキという魅惑的な響きにシンシアの尻尾はピンと上に立った。

(修道院で数回だけ食べたことがあるけどとっても美味しかったのよね。しかも蜂蜜だなんて……贅沢品までつけてくれるの? 絶対明日ここに来るわ!)

 シンシアは心を躍らせながら軽い足取りで宮殿の中を散策した。

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