呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
あの魔物はネズミみたいな姿をしていた。おそらく猫科動物が悍ましい存在なのだろう。不思議なことに自然の摂理は魔物社会にも適用されているらしい。
「もっと気持ち悪い生物に変えられたらどうしようって思ってたけど。猫……猫かあ」
現実を受け止めるべく、もう一度水面を覗き込んだ。
ふわふわの金茶の毛並み、ピンクの鼻に、くりくりとした若草色の瞳。手足は白くて靴下を穿いているみたいに見えてそこもまた絶妙に――可愛い!
「よく見たらそんじょそこらの猫と違って私、とっても美猫じゃない?」
それに額には模様と交じって少し分かりにくいが呪いを受けた時にできる花びらのような痣ができている。
神官たちが見ればすぐに呪いに掛けられた人間だと気づいて解呪してくれるだろう。
シンシアは解呪の魔法が使えない。
これが得意なのは神官のルーカスとヨハルの二人だ。どちらかに会うことができれば元の姿に戻ることができる。二人とも小言がオプションで付いてきそうだがこの際それは気にしない。
「問題は呪いを解いてもらうまでの間ね。猫だけど聖女の力や精霊魔法は使えるのかな? 私が担当しているところの結界が消えたら今よりもっと大変なことになるわ。確かめるためにもその辺に死にかけてる生き物は――いた」
辺りをきょろきょろと見回していると丁度いい具合に男が頭から血を流して倒れていた。
「都合良く瀕死の人が倒れているなんて! 不謹慎だけどラッキーだわ」
倒れている人物の上に載ると、試しに治癒を施す。