呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?
第1章 猫の呪い

第1話

 

 アルボス帝国の王都ハルストンにはアルボス教会の総本山である中央教会が建てられている。聖堂内にある、教会の権威を表すステンドグラスは色鮮やかで、太陽の光と共にガラスの色が白い大理石の床を照らしている。
 その神々しい光を浴びながら祈りを捧げるのは、白の祭服に身を包む一人の少女だ。
 白のヴェール状の頭巾から覗く髪の色は金色。うっすらと開かれている瞳は若草色をしている。白磁のように滑らかな肌はシミ一つなく容姿端麗。
 この神々しい光景を目の当たりにした巡礼者は落涙し、口を揃えてこう言った。
 あれがアルボス帝国に舞い降りた精霊姫』の異名を持つ、この国唯一の聖女・シンシア様だ、と――。





 厳かな教会と隣接する修道院には、清く慎ましい生活を送る修道士や修道女、その上の位である神官たちが暮らしている。

 静寂に包まれた穏やかな早朝、そこに場違いにもほどがあるけたたましい叫び声が響いた。
「シンシア様、シンシア様! お待ちくださいっ!!」
 修道女の制止を振り切って、少女が外廊下を全力疾走する。金色の長い髪を揺らし、裸足に寝間着のワンピース姿――シンシアは後ろを振り向いた。
「待つわけないでしょ! 朝からお風呂なんてごめんだわ!!」
 振り向けば凄まじい形相の修道女の手が伸びてくる。小さな悲鳴を上げたシンシアは再び前を向いてスピードを上げた。

 突き当たりの角を曲がれば教会へ繋がる通路がある。そこは聖女と神官クラス以上の者でなければ通ることが許されない。このままいけばシンシアの勝ち逃げだ。

(これで今回のお風呂も回避できる――)
 しかし次の瞬間、足が何かに引っかかって派手にすっ転んだ。乙女らしからぬ鶏を絞め上げたような声を上げながらも、なんとか受け身の体勢を取る。

「ぐえっ!」
 身を捩って後ろを振り向けば、足が引っかかるよう絶妙な位置にロープがピンと張られていた。

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