呪われ聖女、暴君皇帝の愛猫になる 溺愛されるのがお仕事って全力で逃げたいんですが?

第5話



 イザークは本当に処罰する気がないのだろうか。噂の『雷帝』がこんなにも温厚なわけがない。
 シンシアが内心戸惑っているとイザークがフッと目元を和らげる。

「侍女長からの報告を受けて職務放棄をしていたことは最初から知っている。何か理由があったんだろう? その背景を俺にきちんと教えてくれないか?」

 尋ねられたロッテは悩んでいる様子だ。何度も口を開いては閉じを繰り返すと、やがて覚悟が決まったのか本当のことを話した。

「……実は動物と意思疎通ができなくなっていたんです。部屋で泣いているとユフェ様がわざわざ木に登って様子を見に来てくれました」

 ロッテは一旦言葉を切ると俯いて右手で自身の左手首をきつく握り締める。

「辺境地であるランドゴル領は王都のハルストンよりも魔力濃度が薄いです。私は生まれも育ちもランドゴルで、他の環境には不慣れです。魔力濃度の差に身体が慣れず魔力酔いを起こしていました」


 魔力酔いとは空気中に含まれる魔力と体内の魔力濃度の差によって起きる一種の病気のことだ。時間が経って身体が環境に慣れれば魔法が使えるようになるが、それまではうまく使うことができない。乗り物酔いのように体調や体質によって酔う酔わないがあり、ロッテは体質的に酔いやすい方だった。

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