廓の華
常闇〜とこやみ〜

 夜の帳が降りた花街は、提灯(ちょうちん)の明かりに彩られて綺麗だ。

 眠気もなく窓からその光景を眺めていると、次第にぽつぽつと明かりが消えて辺りは暗闇に包まれた。町中が眠りについていく。

 暗い色の着物に袖を通し、寒さ凌ぎに羽織りをかけて部屋を出る。

 持ち物は久遠さまからもらった手紙と紅、そして櫛であった。

 島根屋の大旦那に身請けされるときには決して持っていけない品ばかりだ。禿達にあげた玩具以外は処分するつもりだったのに、結局全て持ってきてしまった。

 きっと大丈夫。この先には希望しかない。彼の元に無事に辿り着けたら、私は彼と幸せになれる。

 今まで数えきれない思い出と大切な贈り物をくれた分、今度は私が側で支えていきたい。


 裏口を通り、夜明け前に門を出る。幸いにも人影はなく、追っ手に見つかり笛を吹かれることもなかった。

 花街の区画を越えた瞬間、感動で涙が出そうになる。遊郭を去るときは身請けされる時だけだと思っていた。罪悪感は拭いきれないが、この選択しかないのだ。

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