廓の華


 久遠さまに教えられた通り、足を踏み外せばひとたまりもない大きな水路が張り巡らされていた。

 花街に売られる前の記憶はあいまいだが、昔からこの町は地方からの荷物を舟で運び込むための道が多くあった気がする。

 水路に沿って駆け足で目的の屋敷を目指すと、ひんやりと冷たい夜風が肌を刺した。わずかにあがる呼吸が、白い息となる。

 やがて生い茂った竹藪が見えた。あそこだ。あの奥に久遠さまがいる。早く会いたい。花魁ではなくひとりの女として、彼のたくましい腕に飛び込みたい。

 ドクンと胸が鳴って気分が高揚した。改めて辺りを見回すが、民家も外灯もない。久遠さまの言う通り、駆け落ちの待ち合わせ場所には最適だろう。

 それにしてもこんな土地に屋敷が建っているなんて驚きだ。まるで他人の目から隠れるような立地である。久遠さまの所有している家なのか?

 不確かな胸騒ぎを押し込めて竹藪に入る。頭は、幸せな未来を描く花畑と化していた。生きてきた中で一番楽観的で夢見心地な乙女である。

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